
この記事を書いた獣医師
宮嶋 祐也(みやじま ゆうや)/獣医師
エルムペットクリニック院長/株式会社ユニバーサルブリス代表
神奈川・東京で動物病院グループを運営する獣医師。犬猫の診療を中心に幅広く対応し、TikTok(@catdoctoru)やYouTubeでも飼い主向けにわかりやすい情報発信を続けている。
愛犬がしきりに体をかいている。何が原因なのか、病院に連れて行くべきなのか——そんな不安を抱えてこの記事にたどり着いたのではないでしょうか。
犬の皮膚のかゆみの原因は大きく7つに分類できますが、「どこをかゆがっているか」で、まず原因を絞り込むことができます。獣医師として毎日診察を行う中で感じるのは、「症状はあるのに原因が特定できない」と悩む飼い主さんがとても多いということです。
この記事では、症状・部位から原因を逆引きで探せる構成にしています。病院を受診する目安・費用感・受診前にやるべきこと・NGケアも網羅しています。アニコム損保の調査では犬の4頭に1頭が皮膚疾患を抱えている1)というデータがあります。ぜひ最後まで読んで、愛犬のかゆみを解決するヒントにしてください。
📋 目次
まず確認|犬が「かゆい」を訴えるサイン一覧

犬は「かゆい」と言葉で伝えられません。以下の4つの行動がかゆみのサインです。
- かく:後ろ足で特定の部位をひっかく
- 舐める:足先・お腹・陰部を繰り返し舐める
- 噛む:背中・尾の付け根・足を噛んでいる
- こすりつける:床・ソファ・壁に顔や体をこすりつける
特に「夜中に眠れないほどかゆがる」「血が出るほど掻き壊している」は重症のサインです。この状態が続く場合は早急な受診が必要です。
⚠️ 注意:かゆみのサインが3日以上続く・悪化している・皮膚が傷ついている場合は、自宅での様子見をやめてかかりつけの獣医師に相談してください。
【部位別逆引きマップ】どこをかゆがるかで原因を絞り込む
「どこをかゆがっているか」を観察するだけで、疑うべき疾患が大きく絞れます。
| かゆがる部位 | まず疑う疾患 |
|---|---|
| 耳だけ | 外耳炎・アレルギーの耳病変 |
| 足の指の間を舐め続ける | マラセチア性皮膚炎・アトピー肢端病変 |
| お腹・脇の下・股が赤い | アトピー好発部位・膿皮症 |
| 背中・尾の付け根を噛む | ノミアレルギー性皮膚炎 |
| 顔・目の周り・口元をこする | 食物アレルギー・アトピー |
| 全身で毛が均等に薄くなる | 甲状腺機能低下症・副腎皮質機能亢進症 |
| 皮膚に見た目の異常がないのにかゆい | 神経因性かゆみ・初期腫瘍・全身性疾患 |
🩺 獣医師のひとこと:「皮膚に見た目の異常がないのにかゆがる」ケースは見落とされがちです。皮膚肥満細胞腫や皮膚型リンパ腫などの腫瘍性疾患もかゆみを呈することがあるため、「かゆみ=アレルギー」と決めつけず、しこりや色の変化・急激な悪化がある場合は腫瘍の鑑別も必要です。
犬の皮膚がかゆくなる7つの原因
かゆみを引き起こす疾患は多岐にわたります。代表的な7つを症状の特徴とともに解説します。
①アレルギー性皮膚炎(食物アレルギー)
特定のタンパク質(鶏肉・牛肉・小麦など)に対するアレルギー反応。顔・耳・肢端・お腹に症状が出やすく、年齢を問わず発症します。
②アトピー性皮膚炎(環境アレルゲン)
ハウスダスト・花粉・カビなどの環境中のアレルゲンが原因。生後6ヶ月〜3歳に発症することが多く、柴犬・フレンチブルドッグ・ゴールデンレトリーバーなどに好発します。
③ノミアレルギー性皮膚炎
ノミの唾液に対するアレルギー反応。背中・尾の付け根に強いかゆみが出ます。ノミが1匹、1回噛むだけで発症しうるため、ノミ予防薬を使用していても安心はできません。
④疥癬(ヒゼンダニ)
ヒゼンダニが皮膚に寄生し、激しいかゆみを引き起こします。犬から人への感染(人獣共通感染症)リスクがあるため、愛犬が激しくかゆがっている時期に飼い主さんにも皮膚症状が出た場合は疥癬を疑い、皮膚科への受診も検討してください。
⑤細菌性皮膚炎(膿皮症)
ブドウ球菌などの細菌が皮膚に感染した状態。赤みや膿疱、フケが見られます。アトピーや食物アレルギーの「二次感染」として起きることが非常に多い疾患です。
⑥マラセチア性皮膚炎(真菌感染)
酵母菌の一種・マラセチアの過剰増殖が原因。脂っぽい独特の体臭や茶色い変色が見られ、足の指の間や耳・口唇に好発します。
⑦ホルモン異常・内分泌疾患
甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)では、皮膚が薄くなったり毛が均等に抜けたりします。かゆみ自体は軽い場合も多いですが、免疫力低下で二次感染を繰り返します。
獣医師が使う「除外診断の5ステップ」

「検査したのになぜ原因がわからないのか」——この疑問に答えるのが除外診断のプロセスです。原因特定には順序があり、一足飛びにはいきません。
- STEP1 外部寄生虫(ノミ・疥癬)を除外する:まず確実に治療・排除できる原因から除く。
- STEP2 二次感染(細菌・マラセチア)を治療して評価する:二次感染が根本原因を「隠して」いることが多く、先に治療しないと正確な評価ができない。
- STEP3 除去食試験(8〜12週間)で食物アレルギーを鑑別する:最低でも8〜12週間かけないと正確な判定はできません。
- STEP4 血清IgE検査で感作アレルゲンを特定する:何に反応しているかを調べますが、これはアトピーの「確定診断」ではありません。
- STEP5 Favrot基準でアトピー性皮膚炎を確定診断する:問診と臨床像の積み重ねで総合的に判断します。
🩺 獣医師のひとこと:「血液検査でアレルギーを調べました」という飼い主さんは多いですが、血清IgE検査はあくまで「何に感作しているか」を調べるものです。かゆみとの因果関係を確定するものではなく、検査の結果だけでアトピーの診断はできません。「検査したのに原因がわからなかった」というのは、診断プロセスとして正常な経過です。
アトピー性皮膚炎セルフチェック|Favrot診断基準8項目
アトピー性皮膚炎の国際的な診断基準「Favrot基準」を、受診の優先度を判断する補助ツールとしてご紹介します。これは自己診断ではなく、受診のきっかけとして活用してください。
🩺 Favrot診断基準チェックリスト(感度85%・特異度79%)2)
- □ 3歳未満に症状が始まった
- □ 主に室内で飼育されている
- □ ステロイドを使うと症状が改善した
- □ 顔・肢端・腹部・腋窩・鼠径部に病変がある
- □ 耳介に病変がある
- □ 足の先(肢端)に病変がある
- □ お腹(腹部)に病変がある
- □ 耳の縁(耳縁)には病変がない
5項目以上に当てはまる場合、アトピー性皮膚炎の可能性が高いです。皮膚科専門の獣医師への受診を優先してください。
よくある誤解と「正しい対処法」——やってはいけないNGケア
良かれと思った対処が、かえって症状を悪化させることがあります。以下のNGケアは今すぐやめてください。
- 人間用のステロイド外用薬・抗ヒスタミンクリームを塗る:犬の皮膚に人間用の薬は禁忌に近く、皮膚への刺激・肝臓への影響リスクがあります。
- 「毎日シャンプーすれば清潔になる」:シャンプーのしすぎは皮膚のバリアを壊します。標準的な頻度は週1〜2回です。
- 「2週間除去食を試したが変わらなかった」:食物アレルギーの判定には最低8〜12週間必要です。2週間では判定できません。おやつ・歯磨きガムが1つでも混入すると試験が無効になります。
- 以前処方された薬を使い回す:同じように見えても原因が異なれば薬の種類が変わります。自己判断での使い回しは症状の悪化・診断の遅れにつながります。
病院に連れて行くべきタイミング——緊急度別の判断基準

⚠️ 【緊急】すぐに受診:血が出るほど掻き壊している/急激に全身に広がっている/顔が腫れている/元気・食欲がない
- 【数日以内に受診】:3日以上かゆみが続く・悪化している・皮膚が赤い・フケや湿潤がある
- 【様子見OK(1〜2日)】:かき方が軽い・皮膚に傷がない・元気・食欲あり・他に症状なし
動物病院でできる治療と薬の使い分け
かゆみの治療薬は複数あり、症状・原因・生活環境に合わせて使い分けます。
| 薬剤名 | 特徴 | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| アポキル(オクラシチニブ) | 24時間以内に効果・速効性が高い | 慢性管理・毎日内服 |
| ロキベトマブ(注射・月1回) | モノクローナル抗体・投薬ストレス軽減 | 内服が困難な犬 |
| シクロスポリン | 免疫抑制・効果発現まで4〜6週間 | 重症例・長期管理 |
| ステロイド | 強力な抗炎症・副作用に注意 | 急性期の短期使用が原則 |
「治ったのになぜまだ薬を続けるのか」と疑問に思う方も多いですが、これはプロアクティブ療法(維持療法)と呼ばれる戦略です。症状が出ていない時期に低頻度で投薬を続けることで、再発の頻度と重症度を下げることができます3)。また、長期的な投薬が必要な場合、毎日の投薬ストレスを軽減する工夫として、お薬を包んで与えられる投薬補助トリーツを活用する方法もあります。
初診・皮膚科検査(スタンプ検査・皮膚掻爬検査など)の費用は病院や地域によって異なりますが、一般的に初診料+検査で5,000〜15,000円程度が目安です。診断が確定するまで数週間〜数ヶ月かかることもあります。
動物病院を受診する前に準備すること
問診をスムーズに進めるため、受診前に以下の5項目をメモしておきましょう。
- いつから・どこを・どのくらいかゆがっているか
- フード・おやつの種類と、直近の変更歴
- ノミ・マダニ予防薬の使用状況(商品名・最終使用日)
- 同居の人やペットに皮膚症状が出ていないか(疥癬の鑑別に重要)
- これまでの治療歴・使用した薬の名前
かゆみが繰り返す犬のための長期管理の考え方

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因が関わるため、「完治」ではなく「コントロール」が治療目標です。季節の変わり目やストレス・環境変化で悪化しやすく、長期的な維持療法が基本となります。
また、腸内環境とアレルギーの関係も研究が進んでいます。プロバイオティクスや食物繊維が長期的な投薬量の軽減に寄与する可能性が示唆されていますが3)、現時点では研究段階の情報です。食事管理や腸内環境へのアプローチについては、かかりつけの獣医師とよく相談しながら進めてください。
よくある質問
Q. 何日間かゆがったら病院に連れて行くべきですか?
A. かゆみが3日以上続く・悪化している・血が出るほど掻き壊している場合は早急に受診してください。1〜2日で皮膚に傷がなく元気があれば様子見も可能ですが、悪化するようであればすぐに受診の判断を。
Q. アレルギー検査を受けたのに原因がわかりませんでした。どうすればいいですか?
A. 血清IgE検査は「何に感作しているか」を調べるもので、アトピーの確定診断にはなりません。除外診断(STEP1〜5)のプロセス全体を経て初めて診断が確定します。「1回の検査でわからなかった」は正常な経過です。除去食試験など次のステップについて担当獣医師に相談してみてください。
Q. 市販の痒み止めや人間用の薬を使っていいですか?
A. 人間用のステロイド外用薬・抗ヒスタミン薬の塗布は犬には適していません。皮膚刺激や肝臓への影響リスクがあります。犬用の市販シャンプーや保湿剤は使えるものもありますが、成分や用量をかかりつけの獣医師に確認してから使用することをおすすめします。
Q. 除去食を2週間試しましたが変わりませんでした。意味がないですか?
A. 食物アレルギーの除去食試験は最低8〜12週間必要です。2週間では判定できません。また試験中におやつ・歯磨きガム・フレーバー付きの薬が1つでも混入すると試験が無効になります。試験の方法と期間を担当獣医師に改めて確認することをおすすめします。
Q. ノミ予防薬を使っているのに、なぜノミアレルギーになるのですか?
A. ノミアレルギー性皮膚炎は「ノミの唾液に対するアレルギー反応」です。ノミが1匹・1回噛むだけで発症しうるため、予防薬を使っていても散歩先で一時的にノミを持ち込むだけで症状が出ることがあります。予防と同時に、環境(寝床・カーペット)へのノミ駆除も重要です。
Q. 治療しても繰り返します。完治はしないのですか?
A. アトピー性皮膚炎は「完治」ではなく「コントロール」が目標です。繰り返すこと自体は「治療が間違っている」のではありません。季節や環境の変化に合わせて薬の調整を行いながら、再発頻度と重症度を下げていくことが長期管理の基本です。
Q. 動物病院の皮膚科診察でどのくらい費用がかかりますか?
A. 初診+スタンプ検査・皮膚掻爬検査などで5,000〜15,000円程度が一般的な目安です。アレルギー検査(血清IgE検査)は別途15,000〜30,000円程度かかる場合があります。病院の規模・地域・検査の種類によって大きく異なるため、予約時に概算を確認するとよいでしょう。
まとめ|かゆみのサインに気づいたらまず部位を確認して受診へ
犬の皮膚のかゆみは、原因が1つとは限りません。「どこをかゆがっているか」を部位別逆引きマップで絞り込み、NGケアを避けながら、必要な場合は早めに受診することが大切です。アトピーや食物アレルギーは長期的なコントロールが必要ですが、適切な治療で症状を大幅に抑えることができます。
この記事はあくまで一般的な情報提供であり、診断・治療の代わりになるものではありません。愛犬のかゆみが気になったら、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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- アニコム損保株式会社. 家庭どうぶつ白書2023. アニコム損保. 2023. https://www.anicom-sompo.co.jp/company/news/news_20230201.html
- Favrot C, Steffan J, Seewald W, Picco F. A prospective study on the clinical features of chronic canine atopic dermatitis and its diagnosis. Vet Dermatol. 2010;21(1):23-31.
- Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, et al. Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updated guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA). BMC Vet Res. 2015;11:210.